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ADHDの薬や治療方法

ADHDの薬や治療方法

ADHDについて

ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性といった特性が年齢や環境に比べて強くみられる発達特性の一つと言われています。近年では、ADHDに対する理解が進み、「性格の問題」や「努力不足」といった誤解は少しずつ減り、脳機能や神経伝達の特性によるものであることが広く知られるようになってきました。ADHDは一人ひとり特性が異なり、最適な治療や支援の形もさまざまと言われています。薬、栄養、心理的支援、環境調整といった複数の視点から、自分に合った方法を見つけていくことが、無理のない長期的な支援につながります。

ADHDの治療方法

ADHDの治療方法というと、薬物療法を思い浮かべる方も多いかもしれません。実際に、薬物療法が有効な選択肢となるケースも少なくありません。一方で、すべての方が薬を必要とするわけではなく、副作用への不安や、できるだけ薬に頼らずに症状と向き合いたいと考える方も多くいらっしゃるかと思います。そのような背景から近年注目されているのが、薬物療法だけに偏らない治療の考え方であり、その一つとして「栄養療法」が位置づけられています。

ADHD治療の全体像と栄養療法の役割

ADHDの治療は、単一の方法で完結するものではありません。一般的には、薬物療法、心理社会的支援(行動療法やカウンセリング)、栄養療法、生活環境の調整などを組み合わせながら、一人ひとりに合った方法を探していきます。特に栄養療法では、脳や神経の働きを支える栄養素の状態を整えることで、集中力や情緒の安定をサポートし、日常生活の困りごとを軽減する可能性があると考えられています。薬物療法を行う場合であっても、栄養状態が整っていることは、治療全体の土台としてとても重要な意味を持ちます。

脳の働きと栄養の深い関係

脳は非常に多くのエネルギーと栄養素を必要とします。神経細胞同士の情報伝達は、ドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンといった神経伝達物質によって行われていますが、これらは体内で合成される際に、さまざまな栄養素を材料としています。そのため、栄養が不足した状態では、神経伝達物質の産生や働きが不安定になりやすく、集中力の低下、気分の波、不安感、イライラといった症状が強く出ることがあります。ADHDの特性を持つ方の中には、偏食や食事リズムの乱れ、血糖値の急激な変動などが重なり、症状がより目立ちやすくなっている場合も多くみられます。そのため、栄養療法によって特定の食品や栄養素に頼ることよりも、脳が安定して働くための栄養を整えることも重要となります。

ADHDにおける栄養療法の考え方

ADHDに対する栄養療法は、特定の栄養素だけを大量に摂取する方法ではありません。基本となるのは、日々の食事内容を見直し、脳と体に必要な栄養を過不足なく摂ることとなります。そのため、重要視されるのが鉄・亜鉛・マグネシウム・ビタミンB群・ビタミンDなど、脳機能に関わる栄養素となります。これらの栄養素を適切に摂取することで、やる気・集中力・達成感を促すドーパミン、注意力・危機感を促すノルアドレナリン、安心感・情緒を促すセロトニンの分泌が促進されることが知られています。

鉄分とADHD

鉄は、ADHDにおける栄養療法で特に注目されるミネラルの一つとなります。鉄は赤血球中のヘモグロビンの構成成分として知られていますが、脳内ではドーパミンの合成や代謝にも関与しています。ドーパミンは注意力や意欲、行動のコントロールに深く関わる神経伝達物質であり、その働きが不安定になると、不注意や集中力の低下、疲れやすさといった症状が目立ちやすくなります。鉄が不足すると、血液中の酸素運搬能力が低下するだけでなく、脳への酸素供給や神経伝達にも影響を及ぼす可能性があります。特に成長期の子どもや、偏食傾向のある方、月経のある女性では鉄不足が起こりやすく、知らないうちにADHDのような症状を助長している場合も考えられます。

亜鉛とADHD

亜鉛は、脳内の神経伝達物質の合成や調整に関わる重要なミネラルです。特にドーパミンの働きと関連が深いとされており、亜鉛が不足すると注意力の低下や衝動性の増加、情緒の不安定さがみられることがあります。また、亜鉛は味覚や食欲の調整にも関わっているため、不足すると食事量の偏りや味覚異常から偏食を招きやすくなり、結果として他の栄養素の不足にもつながる可能性があります。ADHDの方の中には、食事内容が限定的になりやすい方も多く、亜鉛不足が慢性化している場合もあります。亜鉛は体内で貯蔵されにくいため、日々の食事から継続的に摂取することが大切となります。

マグネシウムとADHD

マグネシウムは、神経の興奮と抑制のバランスを保つ働きを持つミネラルです。脳や神経は、常に電気的な信号によって情報を伝達していますが、マグネシウムはその過剰な興奮を抑える役割を担っています。マグネシウムが不足すると、神経が過敏になりやすく、落ち着きのなさ、不安感、イライラ、睡眠の質の低下などが起こりやすくなります。ADHDの特性である多動性や衝動性が強い方では、マグネシウム不足が症状の一因となっている可能性も考えられます。

ビタミンDとADHD

ビタミンB群は、脳や神経のエネルギー代謝に欠かせない栄養素となります。特にビタミンB1、B6、B12、葉酸などは、神経伝達物質の合成や神経細胞の維持に深く関わっています。ビタミンB群が不足すると、脳が十分にエネルギーを使えなくなり、集中力の低下、疲労感、気分の落ち込みといった症状が現れやすくなります。ADHDの方では、ストレスや生活リズムの乱れによってビタミンB群の消耗が激しくなっている場合もあります。ビタミンB群は水溶性で体内に蓄積されにくいため、毎日の食事から継続的に摂取することが重要と言われています。

ビタミンB群とADHD

ビタミンDは、ADHDの症状改善に関連する医学的な根拠がいくつかあり、特に神経伝達物質の調節、特にセロトニンやドーパミン、オキシトシンといった幸せホルモンの調整に関与し、気分や行動の安定に寄与しています。また、脳内の炎症を軽減し、神経の健康を保つことも知られており、脳の正常な発達と機能の維持に寄与する点で注目されています。つまり、ビタミンDの適切な摂取は、注意力や行動の安定にプラスの影響を与える可能性があるわけです。

栄養素は単体ではなく全体で考え

ADHDに対する栄養療法で重要なのは、特定の栄養素だけに注目するのではなく、全体の栄養バランスを整えるという視点です。鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB群、ビタミンDはいずれも相互に関係し合いながら、脳機能を支えています。どれか一つを過剰に補うのではなく、日々の食事を見直し、規則正しい食事リズムの中で必要な栄養を過不足なく摂取することが、ADHDの栄養療法の基本となります。

薬物療法との向き合い方

ADHDの治療では、薬物療法が有効な場合も存在します。薬物療法では、神経伝達物質の働きを調整し、不注意や衝動性、多動性を軽減することが期待されます。一方で、効果の感じ方や副作用の出方には個人差があり、必ずしもすべての方に適しているわけではありません。栄養療法は、薬物療法の代わりになるものではなく、必要に応じて併用される補完的な支援として考えることが重要となります。栄養状態が整うことで、薬の効果を感じやすくなったり、生活全体の安定につながる場合も数多く存在します。

栄養療法を行う際の注意点

栄養療法に取り組む際には、サプリメントの過剰摂取に注意が必要となります。そのため、自己判断で大量に摂取をすると、健康リスクを伴うことがあります。特に小児や基礎疾患のある方は、医師や管理栄養士などの専門家と相談しながら進めることが望まれます。また、栄養療法だけで症状が大きく改善する方もいれば、効果を実感しにくい方もいます。そのため、専門科による血液検査で栄養素の状態を確認しながら継続的な治療を行う必要がある方もいます。

ADHD治療における栄養療法という選択肢

ADHDの治療は、薬物療法だけに限定されるものではありません。栄養療法は、脳と体の土台を整えることで、集中力や感情のコントロールを支える重要な選択肢の一つとなります。ADHDは一人ひとり特性が異なり、最適な治療や支援の形もさまざまです。薬、栄養、心理的支援、環境調整といった複数の視点から、自分に合った方法を見つけていくことが、無理のない長期的な改善へとつながります。そのため、正しい知識をもとに、専門家による栄養解析と、医師そして栄養カウンセラーと連携しながらご自身に向き合っていくことが大切となります。

執筆者

梶 尚志

執筆者

梶 尚志

総院長 / 七夕医院

医療法人梶の木会総院長 梶 尚志
分子整合栄養医学(オーソモレキュラー医学)に出会い、「人間の体は全て栄養からできている」という原理原則を学び、「薬を使わない治療、栄養療法」を実践、小児の不登校や発達障害、そして、女性の不定愁訴や不妊症、男性更年期といった、通常の治療ではなかなか解決できない悩みを解決。

取得資格

医学博士 / 日本内科学会 認定総合内科専門医 / 日本腎臓学会 認定腎臓専門医 / 日本プライマリ・ケア連合学会 認定医・指導医 / 日本抗加齢医学会 専門医 / 日本医師会 認定産業医 / 日本医師会 認定健康スポーツ医 / オーソモレキュラー・ニュートリション・ドクター(OND)